第39章 ・義兄、遠征中の話 その5
文緒の義兄、牛島若利が遠征先で投下した爆弾の影響力は言うまでもなく小さくない。
ある日の朝、白鳥沢学園高校男子バレー部部室でどんがらがっちゃという古いギャグ漫画のような音が響いた。あててと呟きながら起き上がるのはスマホ片手にひっくり返ってしまった大平獅音である。
「若利、何やってんだ。」
スマホを持ってない方の手で顔を覆うその姿は苦労人そのものである。
「ちょっと獅音、どしたの。」
声をかける天童に大平はああとため息まじりに言った。
「今他校の友達から来たんだけど」
「うん。」
「若利の奴、どうも遠征先で文緒さんが可愛いって喋りまくってるらしい。」
聞こえた男子バレー部の主な野郎共は勿論絶句した。白布ですら思考回路がショートしたみたいな顔、尋常ではない。
「は、喋りまくる、あの若利が、他所で。」
疑問形で言うのは瀬見だ。
「友達は学校のバレー部の人から聞いたらしい。又聞きの又聞きの又聞きみたいなもんだけど、その」
「牛島さんの嫁への溺愛ぶりを考えたら嘘と断定出来ないのが問題ですね。」
白布の察しの良さはさすがであり、瀬見がだああもうっと声を上げる。
「それマジだとしたらあいつ文緒のいないトコで何やってやがんだっ。」
「文緒さんが聞いたら絶対何て事って叫ぶでしょうねえ。」
「てかマジだったらよ、若利の奴帰ったら飯抜きになるんじゃねーか。」
「それいいねえ隼人君。天下の若利君、嫁の尻に敷かれるっ。たっのしー。」
「天童はまたいい加減にしなさいよ。」
「文緒は軽くて薄いので牛島さんを尻に敷けないと思います。逆に肩車されますっ。」
「工はこのタイミングでボケんな後軽くて薄いって文緒が聞いたら何か投げてくるぞ。」
「大丈夫です、最近は瀬見さんに叱ってもらうからって言われます。ん、あれ。」
「馬鹿だろお前。」
白布に容赦なく言われて五色はしょぼんとする。