第38章 ・義兄、遠征中の話 その4
文緒と瀬見が去ってからである。
「何あれ不倫。」
2人の姿が見えなくなってから及川がひそひそと言う。
「おめーじゃあるまいしあるかんなもん。あの嫁はウシワカ以外眼中にねーだろ、口を開けばすぐ兄様ときたもんだ。」
「ちょっと岩ちゃんっ、俺を何だと思ってんのさっ。」
「三股以上かけてたって驚きゃしねーがやられた方から一斉に平手打ち食えば爽快だな。」
「何だってそんなにえげつないのっ。」
「別に毎度お前の周りに女子が固まって矢巾が困ってるとか俺が出動させられるのが腹立つとかじゃねえよ。」
「何もかんもだだ漏れじゃんっ。」
ひとしきり騒いでから及川はふうと息をつきたちまちニィと笑った。
「あれ瀬見君だっけ、なかなか切ないポジションだねえ。」
「あん、何の話だ。」
「もー岩ちゃんてばホント鈍いんだから。決まってんじゃん。」
それでもわからない岩泉は怪訝な顔をする。まーでもと及川は続けた。
「ある意味役得なのかな、大義名分のおかげで大好きな文緒ちゃんと2人きりだもんね。」
「何だかよくわかんねーけど不穏な気配がするからやめろ。とりあえずウシワカ妹はどうせそのうちウシワカ嫁になるだろ。」
ケッと呟いて岩泉は話を終わりにする。見た目ほど気を悪くはしていない。ただまったくあの嫁のせいで次から次へと思っていたという。
そのウシワカは遠征先でとうとうやらかしていた。
「まだ嫁じゃない。」
談笑していた選手達は投下された新たな爆弾の威力に硬直していた。さしもの猛者達もこの堅物という言葉を具現化したみたいな選手からそんな台詞を聞くことになるとは思わなかったのだろう。
しばしの沈黙の後突っ込みが入った。まだってか妹だろと言われる。
「義理の妹だ。差し支えなさそうだからいつかはと思っている。」
やはり若利は堂々と答えた。普通なら冷かされる所をそうされないのは若利だからだ。聞かされた方は大変動揺してしまいそれどころではない。そして当然若利は気づかずに話を続ける。
「だがそうなると将来設計は綿密にする必要があるだろうな。あれの体が少々弱いのも懸念事項だ。」
そういう問題ではないと誰かが突っ込むも若利は首をかしげるばかりだ。