第36章 ・義兄遠征中の話 その2
ついでである、時間は流れて遅くに練習を終えた男子バレーボール部の様子も見てみよう。
「文緒は無事帰ったかな。」
部室で着替えながら瀬見が呟いた。早速聞きつけた天童がニヤニヤしてその顔を覗き込む。
「あーやっぱり若利君がいない間は英太君がおにーちゃんなワケね。」
「若利に見といてやってくれって頼まれたからな。」
「若利君からの信頼絶大だねえ。いつかっさらわれるかわかんないのにさぁ。」
「天童てめーっ。」
怒鳴る瀬見に天童はえーとおちょくった調子で言う。
「だって前に文緒ちゃん泣かすようなら横からかっさらうって若利君に言ってたじゃん。」
「随分前の事わざわざ引っ張り出しやがってこのヤロ。」
「事実じゃん。」
そろそろ天童を絞めかねない勢いの瀬見を見て大平がそれは置いといてと口を挟む。
「文芸部の連中と帰ってるなら大丈夫なんじゃないか。」
「あの人らは文緒さんで遊んでる気もしますけどね。」
「太一、しれっと別の心配を捻じ込まないでくれ。」
やれやれと太平が首を振った所で瀬見があ、と呟く。よく見るとスマホに着信があったのである。とりあえずシャツを羽織りながらロックを解除して確かめた瀬見は途端に固まった。
「おい、どーした。」
山形が尋ねるも瀬見は答えない。心配した山形は瀬見の後ろから勝手にスマホを覗き込むがすぐにああと納得した声を出して何を思ったか五色を手招きする。
「何ですか。」
手招きされた五色は山形と同じように固まった瀬見の後ろからそのスマホを覗き込みこちらも途端に固まった。しかも顔が赤い。何事かと思った白布、川西、大平、そして天童も同じように覗き込みやがて一同は状況を理解した。
「文芸部長やるねえ。」
天童が口笛を吹く。
「こりゃ文緒ちゃん親衛隊イチコロじゃん。」
「たかだかクレープ食ってるだけの写真で馬鹿馬鹿しい。」
白布はいつも通りフンと鼻を鳴らすが川西はおーと呟いている。
「相変わらず幸せそうな顔してるなあ。」
「太一の心配が当たってる感じなのが気になるけどまあ文緒さんらしいな。」
大平が言ったところで天童がニヤリとした。
「これきっと若利君とこにも送られてるよね。やっべ、面白い。」
「面白いて何がだ。」
尋ねる山形に天童はやはりニヤニヤ笑いをやめないまま答えた。