第34章 ・無防備と漫画雑誌
練習がなかったその日、牛島若利はノシノシと家の縁側を歩いていた。少し日が陰っていた頃合い、庭の方にさしかかると義妹の文緒が転がっている。まさか倒れたのかと内心思った若利はドスドスと駆け寄った。しかしすぐにすうすうという寝息を聞く事になる。
つまり義妹は眠っていたのである。ワンピース姿で華奢な両足を投げ出したその傍らには内田百閒の文庫本が落ちている。それは不思議ではないのだがもう一つ見慣れないものが落ちていた。
「これは」
若利は思わず呟く。見慣れないものは何と少年向けの漫画雑誌だった。天童が同じものを購読していたなと若利は思い出す。文緒が買ったとは考えにくい気がした。いずれにせよどちらかを縁側に座って読んでいるうちに眠ってしまったのだろう。何かにつけてよく寝る娘だと若利は思う。どこかへ出かければ帰りの乗り物で眠ってしまうし、大勢とワイワイやっているうちにも眠ってしまう。体がやや弱く体力がない為だろうか。こちらに来てからはそれでも調子が良いらしいが。
ともあれその姿はとても高校生には見えず安心しきった様子がある。何と無防備なと若利は思った。広い敷地の牛島家だから良いもののそうでなければこのご時世どうなることやら。なまじ前の学校の奴に絡まれた件があるものだから尚更だった。困ったものだと思いながら若利はふと義妹の首からボールチェーンがだらりと下がっているのに気づく。例のペンダントだ。若利が贈ってからずっと文緒は本当に外でも内でもほぼこれを身につけていた。服装によってはバランスが悪いのに基本はやめない。随分と律儀な娘を貰ったものだとつくづく思うあたり若利の認識は義妹を自分への贈り物だとしている節がある。