第29章 ・ウツイの娘 その1
「私の兄様。」
聞き取った文緒は一応本当の事を言ったが相手の混乱はひどくなったらしい。
「何をうろたえている。」
一方若利は首をかしげる。
「うちの娘になった結果俺の方が歳上だった。おかしくないだろう。」
「兄様、多分そっちではないかと。」
「そうか。」
若干ボケを挟みつつも若利はやはり相手を睨んだままである。
「いずれにせよこちらも荒事にはしたくない。こいつは連れて帰る。ただし先程のような真似をまたするようなら覚悟しておけ。」
若利はそこですうと息を吸った。
「俺は地の果てまでも追う。」
相手はどこまで本気か判りかねたらしい。
「兄様なら少なくとも町中追っかけ回すと思うよ。」
ポソッと言った文緒の言葉を相手はやはり半笑いのような顔で聞いていた。あまりの事に現実感がなくなったのかもしれない。
「あー因みに」
ゴホンとわざとらしい咳払いをしていつの間にか天童が混ざっていた。
「そこのおにーちゃんじゃなくても文緒ちゃんに何かしたらここにいるもう1人のおにーちゃんが黙ってないからねー。」
見れば天童どころか瀬見他チームの連中が勢揃いしている。
「おい天童、余計な誤解招きそうだからその言い方やめろ。」
「だって実際若利君よりおにーちゃんしてる事しばしばじゃん。」
「つーか文緒をいじめるとか命知らずかっ。」
「そうそう、マジで兄貴にぬっ殺されるぞ。」
「違います山形さん文緒を本気で怒らせたら超怖いって話ですっ。おいお前っ、うちのエースが間に合ってなかったらそこいらにあるもんで叩かれてたぞっ。」
「お前の中であの嫁のキャラはどうなってんだよ。」
「だって白布さん、あいつ何気に容赦ないから。」
「工、それじゃあまるで文緒さんが野蛮な人みたいに思われるからやめような。」
「天然って凄いですねえ。」
「太一はさりげに面白がって煽るのをやめようか。」
文緒は慣れてしまっているが若利ほどではなくともでっかい野郎共が並んでいる様は色々な意味で怖いかもしれない。更に天童がにいっと笑って覗き込んだものだから文緒にちょっかいをかけた相手はたちまちのうちに青ざめた。