第28章 ・他所の宿題 終わり
「何か問題でもあったのか。」
「どうしようこの人。」
文緒は両手で顔を覆う。一部の乗客がクスクス笑っている気がした。
「とはいえ」
ふうと息をついて若利が言う。
「お前が無事で楽しく過ごしたのならそれでいい。」
「兄様。」
文緒は顔を上げた。特に表情の変化がない義兄だが雰囲気が穏やかである。
「お前のおかげで本当に色々経験する。」
「そうでしょうか。」
「こうして妹を迎えに行く事も無事にしているか気にする事も以前なら考えられなかった。」
「手間が増えたかもしれませんね。」
「何も思っていない。余計な事は言うな。」
「申し訳ありません。」
「そうじゃない。俺は好きでやっている。お前が気にすることではない。」
「はい、兄様。ただその」
「何だ。」
「日向達の前で妙に張り合っておられるのはどうなのかと。」
「何の話だ。」
「まあ何て事、とぼけられるなんて。」
「張り合ってなどいない。」
「頑固だこと。」
「お前に言われるのは納得がいかない。」
そんなやり取りの間も電車はガタガタと揺れ進んでいくのだった。
後日の話である。
「ハアアッ、」
早朝の白鳥沢学園高校バレー部部室にて瀬見英太は素っ頓狂な声を上げていた。
「何じゃそりゃっ。」
横では天童が着替えつつもワクワクテカテカした顔でそんな瀬見を見ている。
「そのままの意味だ。」
牛島若利は淡々と答えた。