第26章 ・他所の宿題 その1
とある夏休み、牛島文緒は妙な事になっていた。なっていない日の方が少ないというもっともな指摘はこの際置いておくとして一番の問題は一緒にいる相手かもしれない。
「うぐぐ。」
「頑張って。」
「うぎぎ。」
「大丈夫。」
文緒は疑問形で言いながら相手の顔を覗きこむ。相手はしばし唸りっぱなしだったがやがて頭から煙でも吹いたかのように力の抜けた顔になった。
「わ、わかんねぇ。」
ボソリという相手に文緒は苦笑するしかなかった。
なかなかの光景が展開されていた。白鳥沢学園高校牛島若利の義妹、牛島文緒がその義兄が目の敵にしている烏野高校の日向翔陽に勉強を教えている。それも場所が場所だ。
「ごめんね谷地さん、私までお邪魔しちゃって。」
「いやいやいやっ。」
日向と同じ烏野高校男子排球部の谷地仁花は大変慌てて首をブンブンと横に振った。
「むしろこっちこそ巻き込んじゃってごめんなさいいいいいいいい。」
「あの、土下座しないでお願いだから。それによく考えたら逆に良かったかも。影山君も見なきゃいけないんでしょ、谷地さん1人じゃ大変そう。」
「う、うるせーよ。」
「でも谷地さんのお母様も驚かしちゃったみたいで。」
「アハハ、まさか噂のウシワカの妹さんがうちに来るなんて思わないから。」
「私も今の家に来てからホントに色々あるなって思う。」
「そもそも今のお家に来た事がもうえらい事って感じだね。」
ついつい女子同士で喋ってしまう2人だが
「文緒さん、タスケテ。」
頭から煙を吹いたままになっている日向が呟いてハッとしたのだった。
実際谷地が言った通り文緒は巻き込まれたのである。元々夏休みの宿題をするのに図書館へ行こうとしていた。普段から家でちゃんと宿題は出来ているのだがどうも休みで朝から家にいるとさしもの文緒もだれそうになる。これではいけないと思って外へ行くことにしたのだ。そこへ丁度教えてもらうべく谷地邸へ向かっていた日向と影山に遭遇した。