第25章 ・海へ行く話 終わり
「はーい、文緒ちゃんはもちっとよってー、んで若利君は文緒ちゃんと手え繋いでー。」
スマホ片手に天童が言う。
「誰かあの馬鹿止める奴いなかったのか。」
呆れたように呟くのは瀬見である。
「お前が言ってどーすんだ瀬見。」
「無茶言うな隼人、俺が便所行ってる間に始まってたんじゃねーか。」
「天童は随分熱心だなあ。」
「兄妹の思い出作り手伝うとか言ってその実遊んでる気しかしねえ。」
「文緒の足引っ張りましたしねっ。」
「よく討伐されなかったよな、天童さん。」
「牛島さんが迷子札にプラスしてあの嫁に魔除けくらいはつけるかもしれないけどな。」
「こらこらお前らね。」
待っている奴らが好き放題言っている間も天童はカメラマン気取りなのかノリノリでスマホのカメラアプリを操作している。
「兄様、何故こうなったのでしょうか。」
「わからないが天童の好意だろう。」
「遊ばれている方が大きい気もしますが。」
何も考えていないらしい義兄に文緒は呟く。そもそもは帰る前にせっかくだからみんなで写真撮ろうという流れだった。通りすがりの人に頼んで野郎共プラス毛色の違う少女1人は集合写真を撮りそれで終わりの予定だったのである。それなのに天童が突発的に言いだした。
「そうだっ、若利君と文緒ちゃんだけの写真撮らないとっ。」
折悪しく先にもあった通り瀬見がお手洗いに行った矢先だった。あるいは天童なのでタイミングを狙った可能性もある。当然強く止められる奴もいないまま兄妹は天童に撮影される運びとなった。
「はい、今度は文緒ちゃん座ってー。」
「あの、天童さん。」
「若利君はこの辺に立って、文緒ちゃんの方見て。」
「わかった。」
そのまま指示に従う若利にとうとう文緒が突っ込んだ。
「兄様お待ちください、何だか妙です。」
「そうなのか。」
「記念撮影の域を超えてる気がします。」
文緒にしては頑張っている。