第23章 ・海へ行く話 その4
「言っているそばからこれだ。」
若利は迷わず義妹を抱き上げた。驚いたらしき文緒が兄様いけませんっと声を上げるが聞くつもりなどない。バシャバシャと海水を跳ね上げながら若利は仲間の所へ向かう。
「兄様、自分で歩けます。」
小さく大人しくも抗議する義妹にしかし若利は敢えて応えない。珍しくほんの少しだけ後ろめたい所があった。滅多に触れることのない義妹の肌の感触が愛おしくてすぐに離したくない。ただでさえ愛らしい義妹が愛らしい水着をまとって案の定さっきのような胡乱な奴に見られたのだ、気をつけないとこの肌に触れようとする輩も出るのではないかと若利は本気で思う。これだから本当は不特定多数の前で水着姿になってほしくなかったとまで考えた。
そんな考え事をしながら若利は砂を踏みしめながら歩いていた為文緒からすればずっと公衆の面前で抱きかかえられていたままとなる。
「若利あのね、」
仲間の所に戻ると早速大平が頭を抱えて言った。
「人前だって事を考えなさいよ。」
「胡乱な輩に見られていた。」
「だからってそれじゃ余計に人が見ると思うよ。」
「そうか。人目を惹く娘の扱いは難しい。」
「いやそっちじゃなくてね。」
「どういう事だ。」
「誰かちょっと手伝って。」
「俺瀬見さん呼んできますっ。」
「それもいちゃついているようにしか見えないからやめてください。」
「白布、お前もか。」
「どう見たって嫁が恥ずかしがってるでしょう。」
「家では普通だが。」
「兄様っ。」
文緒の叫びと同時に荷物番でこの場にいない瀬見とその瀬見を呼びに行った五色を除くメンバーは沈黙して固まった。
「え、何、何なの。」
しばらくして天童が口を開いた。
「若利君てば家でしょっちゅうそんな事もしてんの。ただでさえ文緒ちゃん膝に乗っけてたよね。」
「お前らじゃなかったら爆発しろって言いたい所だわ。」
苦い顔をするのは山形で白布は完全にうわぁとドン引きした表情、川西はマジすかとボソッと呟いている。
「溺愛もここまで来たら国宝級だな。」
「太一一言多いって言いたい所だけどこればっかは同意する。」
白布が呟き若利は随分な言われようだと思った。やがて腕の中の文緒が呟く。