第20章 ・海へ行く話 始まり
「断る。」
とある夏の日、練習を終えて部室で着替えていた牛島若利はただでさえ仏頂面に見える顔をあからさまにしかめて言った。
「まーた若利君の過保護が始まったー。」
天童が不満そうに返す。
「嫁ちゃんが魅惑のロリ化してるのはわかるけど」
「あれは文緒だ、ロリータではない。それとまだ嫁じゃない。」
「お前は突っ込んでんのかボケてんのかはっきりしろ。」
瀬見が若利に突っ込むが一方の天童は話を続ける。
「文緒ちゃんの事だからどーせまともに行った事がないんじゃないの。」
「だからと言って同行させるのは断る。」
「別に俺ら何もしないって。若利君どころか英太君もいるのに。」
「さりげに俺を巻き込むな、天童。」
「お前達はいいが毎度周囲が油断ならない。それでなくても文緒は時折大胆な行動に出る。」
「何気に売られた喧嘩買うしね。」
シシシと笑う天童、一体何の話をしているかというとみんなで海水浴に行こうという話でそこへ天童が文緒ちゃんもなどと言いだしたためにこの状況が発生したのだ。
そんな不毛なやり取りの中、何か気づいた大平が口を開く。
「目が泳いでるぞ工、クラスで文緒さんに何かしたのか。」
言われた五色ははいいいえっと意味不明な返事をしてどっちだよと白布に突っ込まれた。
「べべべ別に何も英語の小テストで勝負したってだけです。」
「ふっかけるお前もお前だけど若利の嫁も受けるか。」
「因みに勝敗は。」
呆れる山形に続いて川西が尋ねると五色は目をそらす。聞かずともまるわかりだった。
「馬鹿。」
白布が呟いた所で天童がそれはともかくっと話を元に戻す。
「いーじゃん、若利くーん。」
「そも何故文緒を同行させようとする。」
「野郎ばっかじゃむさ苦しいじゃん。」
「日々の事を考えたら今更だろう。」
「お、何気に考えて返してきた。」
「何を言おうと文緒の同行は断る。人前で肌を晒させるなど以ての外だ。」
「頑固親父かよ。」
「こら天童っ。」
「まだ父親じゃない。」
「若利お前もそっちじゃねえっ。」
とうとう突っ込みきれなくなってきた瀬見が肩で息をし始めた。
「おい誰かあのとめどねえ馬鹿とど天然何とかしろ。」
「そうしてえけどよ」
山形が呟いた。