第19章 ・共有
「そろそろお夕飯の支度をしなくては。」
「そうか。」
言いながら何とは無しに名残惜しかったので若利はわざと遅れ気味に義妹を離す。
「何故泣いている。」
「嬉し涙です、兄様。」
「大袈裟な事だ。」
「兄様に褒めていただいたのに泣くなだなんて無理な相談です。」
「そうか。」
若利は言ってもう一度文緒を抱き締めしかもそのまま持ち上げた。
「兄様もういけません、いい加減お母様達に言い訳できなくなります。」
腕の中でパタパタする義妹、しかし若利は聞くつもりがない。
「お前が出来るようになったのは喜ばしい。するなという方が無理な相談だ。」
「兄様。」
「行くぞ。」
「はい。でも降ろしてくださいな。」
「このまま運ぶ。その方が早い」
「まあ何て事、人をバレーボールの用品みたいに。」
「どちらも大事だ。」
何も考えずに若利は思ったなりを言った。
「ただお前は用具入れに仕舞っておくわけにはいかない。」
「確かに仕舞われては困ります。」
「本音を言えば戸棚にでも入れて不届き者の手の届かないようにしたいところだが。」
「え。」
「冗談だ。」
兄様と文緒が呟く。
「今のは冗談に聞こえません。」
「そうか。」
バレーボールの事は少し共有出来そうでもユーモアの方は相変わらず難しいと若利は思った。
次章に続く