第19章 ・共有
牛島家の敷地内のことである。
「良いのですか、兄様。」
義妹が尋ねる。
「何がだ。」
義妹が打ったボールを返しながら若利は聞き返す。
「せっかくのお休みなのですから」
更にボールをレシーブしながら義妹の文緒は言った。
「ご自身の練習に使われたほうが良いのでは。」
「問題ない。」
義妹から返されたボールをかなり加減して打ちながら若利は言った。
「こういう事も必要だ。」
「そうなのですか。」
「俺の学びにもなる。例えば」
不慣れ故に軌道が大きく逸れたボールを若利はふわりと返す。
「こういった加減の仕方とかあるいはどう教えれば伝わるのか。」
「そうですか。」
「もっとも」
一旦ボールを受け止めて若利は言った。
「お前は多少相手の言葉が足りずとも文脈から察する事がある。しかもそれは外れない事が多い。」
「お役に立てないのでしょうか。」
「そうではない。」
若利は一瞬目を閉じる。
「そういう者もいるという学びになる。」
目を開けると文緒は微笑んでいた。
「兄様、お上手になりましたね。」
「そうか。」
「ますます他の子達が放っておかないかも。私も油断してはいけませんね。」
「よくわからない。」
「人に自覚がないと仰るのに何て事。」
「他の娘には興味がない。」
母や祖母に聞こえるやもしれないのにそういう事を堂々と言うのは如何なものか。実際文緒が顔を赤くしていた。
「少し休むか。」
思い切り勘違いして若利は言った。
「いえそういう訳では。」
「俺も夢中になり過ぎた。休憩だ。」
はいと呟く文緒がもうこの人はと思っているなど若利は知らない。