第20章 グレイ scene2
「わかった…ちょっと落ち着け、な?」
「翔ちゃん…」
ぎゅっと雅紀が俺の腕を掴んだ。
「離れないで…」
蚊の鳴くような声でいうと、潤んだ目で俺をみた。
ぶるっと身体が震えた。
雅紀の身体に腕を回すと、しっかりと抱きしめた。
「大丈夫だから。俺がいるから」
雅紀はこくんと頷くと、また俺にしがみついた。
廊下を歩く人に、じろじろ見られたけど構うもんか。
なんとか遠回りして楽屋まで戻ったら、智くんが楽屋にいた。
「ねえ。智くん、楽屋のそばに居なかった?」
「ん?ああ…あれってそっちの人だったの?」
ええ…この人わかってなかったのかよ…
「微動だにしないから、おかしな人だなとは思ったんだけど…」
そう言ってふにゃりと笑った。
この人の世界にはおかしな人しか見えていないんじゃないか…?
「あれ、どっか行ってもらうことはできないの?」
「さあ…俺、そういうのできないから…」
「だよね…」
結局、スタジオに行くときは、また俺と雅紀だけ遠回りして行った。
智くん曰く、あんまり悪いものじゃなさそうだけど、雅紀が怖がっているから、またからかわれそうだし…
念のため、ね。