第19章 不言色(いわぬいろ)
「翔ちゃん、最近元気ないね」
智くんに顔を覗き込まれる。
「そう?至って元気だけどね」
「無理してんじゃないの?」
「なんの?全く無理なんてしてないよ」
「そう…?」
楽屋でソファに沈み込みながら、智くんはいつも核心を突いてくる。
ある意味無理はしている。
だけど、ある意味俺は幸福でもある。
腕時計を覗き込んで、時間を確認すると俺は楽屋を出た。
ミーティングルームを借りてある。
そこに着くと、回りを見渡してから中に入った。
中に入るとすぐに腕時計でタイマーをセットする。
ポケットからスマホを取り出すと、メッセージを打ち込んで暫く待った。
すぐに返事が返ってくる。
それを見て、俺は椅子に座って目を閉じた。
何回こんなことをやっているだろう。
そのうちバレるかもしれない。
けど、やめられなくて。
やめることができなくて。
やがてドアが開く。
あの香りが漂ってくる。
近くに立つ気配がすると、その香りを抱き寄せた。
「翔さん…」
愛おしい香りは、そのまま俺をふんわりと包んだ。
「今日は雅紀と一緒に来たの?」
「ううん…別々で来たから大丈夫だよ?」