第19章 不言色(いわぬいろ)
手に、衝撃が残ってる。
車の助手席には泣きじゃくるニノが乗っている。
俺はあの瞬間、雅紀を殴り倒した。
そのままニノの腕を掴んで車に乗せた。
急発進で車を出すと、ニノのすすり泣く声が聞こえて、やっと我に返った。
一体、俺は何をしたんだ
考える前に、勝手に身体が動いていた。
我を忘れるほど、理性が吹っ飛んでしまっていた。
「ごめん…ニノ…」
前を見ながら声を掛けるので精一杯だった。
でもニノの嗚咽は増々大きくなる。
途方に暮れた。
「…お前たち、付き合ってんの…?」
そうとしか考えられなかった。
だとしたら、俺のしたことはとんでもないことで。
確認しておかなければならなかった。
ニノを伺うけど、なんの返事もない。
ただすすり泣く声だけが延々と続いた。
「ごめん…」
俺の声は虚しく宙に散った。
ニノの家に送っていこうと車を進めていたら、突然腕を掴まれた。
「今日、帰りたくない…」
「え…?なんで?」
またニノは黙りこんだ。
口を真一文字に引き結んで、じっと俺の顔を見た。
「翔さんの家、行こ…?」