第19章 不言色(いわぬいろ)
「だって…翔さんが秘密にするから…」
「だからそんな女は居ないって言ってるだろ?」
「じゃあ、男なの?」
小さな声でニノが呟いた。
「は?」
思わず強い口調で言ってしまう。
「なんでもない…」
そう言って楽屋の奥にあるテーブルの方へ歩いて行った。
「なに…?カズ、なんて言ったの?」
「知らね…」
憮然としていたら、また潤は文庫本を読みだした。
「じゃあ、断っておくから」
「ああ…悪いな…」
楽屋に重い空気が流れた。
居たたまれなくなって、俺は楽屋を出た。
「んだよ…俺が悪いのかよ…」
用もないのに自販機まで歩いた。
今日は珍しく閑散としている。
安心して不機嫌なツラのまま、コーヒーを買ってベンチに座った。
なんだよ…なんであんな責められないといけないんだよ…
ほっとけよな…
糞不味いコーヒーは、胃に沁みた。
半分ほど飲み終えたところで、コーヒーを捨てた。
カップも捨ててそのままメディアタワーのお台場が見晴らせる場所まで出た。
ここはベンチもなにもない場所で、人があまり来ない。
一人になりたいとき、よくここに来る。
窓から外を眺めてぼけっとガラスに凭れかかった。