第19章 不言色(いわぬいろ)
途端にニノの顔に花が咲いたような笑顔が浮かんだ。
思わず目を閉じた。
「じゃあ、俺、終わったし行くわ」
「んー。後でね」
雅紀の声を後ろで聞きながら、トレーを持って席を後にした。
…雅紀には、あんな笑顔みせるよな…
いつもの事だ。
そうは思っても、なぜだかもやもやとしたものが湧いてくる。
楽屋に入ると、潤がソファに座っていた。
文庫本を静かに読んでいる。
「翔くん?」
「ん?」
「眉間にシワ」
「マジか」
鏡前に立って確認したら、見事に縦皺が入っていた。
「ふう…」
指で伸ばしながらソファに座ると、潤が文庫本から目を上げた。
「ねえ。この前のこと、考えてくれた?」
「…ああ…」
「…やっぱり、ダメ?」
「ん…ごめん…」
「そっか…」
この前から、潤に会ってほしい人がいると言われている。
向こうが俺にご執心だとかで。
潤曰く、とても良い娘だから是非会ってみてはどうかと言われていたんだが…
どうも乗り気にならない。
「俺がいい娘だって言ってるのに。信用ないなあ…」
「いや、別にそんなわけじゃないよ。単純に今、別に彼女がほしくないだけで…」