第19章 不言色(いわぬいろ)
シャワーを浴びながら、ニノの事を考えた。
なぜ俺を殺したいんだろう。
俺を殺したら、ニノにとって何が残るんだろう。
いくら考えてもわからなかった。
この日から、俺の心の中にはずっとニノの言葉が住み続けた。
”翔さん…殺したい…”
それから一週間が経って、またレギュラーの収録日。
楽屋に入ろうとしたら、いきなりニノと出くわした。
「あ…」
「あ、翔さんおはよー」
そうにこやかに言って、ニノは楽屋を出て行った。
なんだか拍子抜けしてしまった。
なにか言い訳でもされるのだろうかと思っていたが、そんなことは一切なかった。
楽屋の扉から入ろうとしたら、続けて雅紀が出てきた。
「あ、翔ちゃん」
「おう。おはよう」
雅紀はにっこり微笑むと、ニノの後を追うように駆け出していった。
後ろ姿を見送りながら楽屋に入る。
その日は、ずっとニノは普通通りだった。
いつもの通り、機転の利くトークを広げて、その場の進行を助ける。
なんの変化も感じない。
あの日のニノは、やっぱり夢だったんだろうか。
寝ぼけていたんだろう。
収録が終わる頃には、俺はそう結論づけていた。