第19章 不言色(いわぬいろ)
意識は覚めているのに、身体が上手く動かなかった。
気配は俺の傍にいつまでも立っている。
香水の匂いが漂ってきた。
その香りで誰かを知った。
起きなきゃと思うんだけど、なかなか起き上がれなかった。
「翔さん…?」
なんだよ……
一息置くと、深い吐息が聴こえた。
「……殺したい……」
手が、俺の首に触れた。
その瞬間、目が開いた。
見上げると、怯えた顔をしてさっと手を引っ込めた。
「ニノ…?」
そのまま身体を翻して、ニノは楽屋を飛び出していった。
「え…?なんだよ…一体…」
一体、殺したいと思うようなことをニノにしてしまったのだろうか。
心当たりはなかった。
最近はツアーもないし、いつも以上にいつもな日常を送っていた。
智くんや潤のようにドラマの予定もない。
お互いに平穏な日常を送っているはずなのに…
暫くソファの上で動けないでいた。
気がついたらソファの上で寝転がっていた。
腕時計のアラームが鳴り出した。
深夜0時を指していた。
あれは、夢だったんだろうか…
身体を起こすと、ブランケットを手にとって荷物を持った。
乱暴に楽屋のドアを開けて、俺は自宅に帰った。