第19章 不言色(いわぬいろ)
「また…翔ちゃん、こんなところで寝ないの。風邪引いちゃうよ?」
智くんが俺を揺り起こす。
「いいから…眠いんだよ…」
「そんなこと言って、このまえのPV撮影のとき風邪引いたんだろ?」
「煩いなあ…」
智くんは諦めたのか、楽屋にマネージャーが置いていったブランケットを掛けてくれた。
「もう…ちゃんと帰るんだよ?」
「わかってるよ…」
楽屋には俺一人になった。
廊下をガヤガヤとひとかたまりの集団が通り過ぎていく音がした。
通って行くと、後は静寂。
そうだろう。
もう夜の11時に近い。
それでも無人にならないのがテレビ局というところだ。
暫くうつらうつらと眠っていると、だんだん深い眠りが訪れる。
マネージャーも帰してしまったし、後は俺が帰るだけだ。
ここ、何時まで借りているんだろう。
そんなことを思っていたら、楽屋のドアが開く気配がした。
ああ、もう出ないといけないのか、そう思って身体を起こそうとしたが起き上がれない。
そうこうしているうちに気配は、俺のすぐ傍に来た。
「翔さん…?」
聞き慣れた声だった。