第12章 退紅(あらそめ)scene2
震える手でハンドルを握った。
「どうしたの?何もしゃべらないで…」
智くんは無邪気に話しかけてくる。
「智くん…あんなところでなにしてたの…?」
「近くの画材屋に行ってたの」
「そう…なの…?」
「うん」
見ると、手に画材の入った袋を持っている。
ホッとした…
「今日は、晩ごはんどうする?」
「あ、うん…なんか買って帰ろうか」
「そうだね」
そう言って深く座席に腰掛けた。
夜の闇が、だんだん迫ってきて。
俺達の車も飲み込まれていく。
「あ、翔くん。ちょっと停まって」
「え?こんなところで?」
「うん」
ハザードを出して停まると、智くんは車を降りていった。
人気のない川の上の橋。
そこから智くんは何かを放り投げた。
きらきら光って、それは川底に沈んでいった。
「え…」
あれはCD-R…?
智くんが車に乗り込んでくる。
「おまたせ。さ、いこ?」
「智くん…今の、なに…?」
「ん?なんでもないよ?」
「でもっ…」
智くんの手が、俺の手を掴んだ。
「翔くん…?どうしたの?」
いつもと変わらない微笑みが、そこにあった。