第12章 退紅(あらそめ)scene2
仕事を終えて家路に着く。
あれから、男に関する続報は入ってなかった。
事務所からも連絡もなく。
あの男が握っていたであろう、証拠はどうなったんだろうか。
これ以上深入りするなと言われても、そこが気になるところで…
名刺を燃やしてしまったけど、書いてあった住所は暗記してある。
別にどうする気もなかったけど、近くまで行ってみることにした。
流石に近くまでは、警察車両が停まっていて行けなかった。
警戒線の向こうに見える、安アパート…
これがあの男の最期の棲家だったんだ。
なんの感傷も起こらない。
そのまま引き返した。
途中、歩いている男が見覚えのある猫背で。
「え…?」
パーカーに深くキャップを被って歩いている…
「なんで…」
車を停めて窓を開ける。
「智くんっ…」
その男はゆっくりとこちらを見た。
俺の顔をみると、微笑む。
「翔くん、どうしたの?」
その笑顔は…
あまりにも透明で。
息を飲んだ。
智くんは微笑んだまま、車に近づいてくる。
「どうしたの?こんなところで…」
「え…?」
「車、迷惑だから出しちゃおうよ」
そう言って助手席に乗り込んできた。