第12章 退紅(あらそめ)scene2
「ありがとうございます…」
男は封筒の中身を、乞食みたいな目で見ている。
「それで終わりにしてくださいよ…?」
「え?」
男はにやりと俺の顔を見つめた。
「そんな訳には行きませんよ…」
やっぱりな…
俺はにっこりと笑った。
「な、なんだよ…笑いやがって…」
にこにこと笑って男に近づく。
「や、やだなあ…笑うとすごく怖い…」
「そうですか…?俺、この笑顔で飯食ってるんで…そう見えるのは、あなたに問題があるんじゃないんですか…?」
「は…そうですか…顔に自信、あるんですねぇ…」
「じゃないとこの世界で生きていけませんからね…」
「ちょ、ちょっと…近づきすぎ…」
湾岸の使われなくなった倉庫。
もうすぐ建て替え予定。
こういう取引には絶好の場所。
男の身体が、柵に寄り掛かる。
「これで、終わらせてくれますか?」
「ちょ、ちょっと…」
ぐいっと肩を押す。
「や、やめろよ…」
「なんで逃げないの?」
「あんた芸能人だろ!?こんなことしてただで済むと思ってんのかよ!?」
「思ってないよ」
「え…?」
「だから、殺すんだろ?」
「ちょっ…」
ぐいっと押すと、あっけなく男の身体は離れていった。
柵が壊れているのなんて、知ってた。
「てめえっ…」
男の手は、虚しく空を掴んだ。
残された封筒を取り上げて、俺はその場を離れた。