第12章 退紅(あらそめ)scene2
「ただいま」
家に帰ると、もう智くんは帰ってきていて。
にこにこ笑いながら俺を出迎えてくれた。
「ねえ、今日はカキフライ買ってきたよ」
「お、いいねえ…」
「…どうしたの?」
「え?」
玄関で靴を脱いだ俺の顔をじっと見つめる。
「なにかあったの?」
「別に…?」
「顔色悪い」
「そう?風邪でも引いたかな」
おでこに手を当てられる。
「熱、ないよ?」
じっと見つめられるその瞳を、まっすぐ見ることができなかった。
「なにか…あったんだね?」
「別に…ないよ」
「またなんか言われたの?アヤのことで…」
「違うよ。それは違う」
「ごめん…翔くん…ごめん…」
「違うから…智くん…」
荷物を落としてぎゅっと抱き寄せた。
「そんなこと、たいしたことじゃないんだ…」
「え…?」
「さ、カキフライ食べよう?」
智くんの肩を抱いて、歩き出す。
そう…そんなことたいしたことないんだ…
人々は飽きたら、次の刺激を求めるんだ。
そうしたらあんなことすぐ忘れる。
でも…
アイツのことは…
静かな決意を俺は固めた。