第2章 アザリア
最終日だったこともあって、フェスは盛り上がった。
初めての試みが大成功で俺たちも興奮した。
勢いに乗って、アンコールもいつもより長かった。
全身びしょ濡れになりながらも、俺達ははしゃいだ。
ファンの子の笑顔が嬉しかった。
会場の声援が嬉しかった。
懐かしい曲を歌いながら、色々なことがよぎっていった。
小さいころの潤の姿を何故か一番思い出した。
全てが終わり、バックステージに捌けた瞬間、足に力が入らなくなってトラスに寄りかかった。
皆、盛り上がってて誰も気づかない。
良かった…
すっと、誰かが俺の腕を取った。
潤だった。
「そのまま…歩ける?」
小さい声で誰にも聞こえないよう確認してくる。
やっぱりよく見てる。
そして俺が、絶対に皆に知られたくないって思ってることもわかってる。
「ん…楽屋までなら歩けると思う」
そういうと、目を合わせて頷いた。
潤は肩を組むと、そのまま歩きだした。
無事に終わったことを喜びあってる風を装って、俺達は楽屋まで歩いた。
楽屋に入ると、メンバー同士でお疲れ様を言い合って。
その間も俺は潤と肩を組んだままだった。
ひと通り終わると、皆、着替え始めた。
潤は俺をソファに座らせて、どこかへ行ってしまった。
とりあえず、バレずには済んだ。
ほっと息をつくと、めまいを感じた。