第10章 チャイニーズ・ローズ
次の日、事務所に呼び出された。
いつもは入らない重役のための部屋。
そこに入ると、彼女の事務所の社長が来てた。
なんの話か察しがついた。
「やあ、松本さん。お久しぶり」
仕立のいいスーツのシワを伸ばしながら、握手を求められた。
応じると、にやっと笑う。
「早速だけどね。アイツ…仕事にならなくてね…」
「すいませんでした…僕の不注意で…」
「いやいや…いいんだ…あんなのかすり傷だから。キレイに治るよ」
ソファに腰掛けると、上目遣いで俺を見上げた。
「そろそろ…いいんじゃない?」
「え?」
「もう何年になる?付き合って」
「そんなこと…考えてませんよ…」
「あれ?オカシイな。プロポーズされたって聞いたけど…」
「それはだいぶ前の話で…」
「じゃあ、いいじゃない。何か問題ある?」
膝の上で手を組んで、俺の表情を伺ってる。
この人、知ってる…
全部、知ってる…
「まあ、待ってくださいよ…松本の話も聞いてやってくださいよ…」
事務所の人間が割って入る。
「いやいや…いいんだよ?そんな焦らなくて。でもね…」
ぐいっと俺の方に顔を寄せた。
「クソガキ…あんま、舐めんなよ…?」
底冷えするような声だった。