第10章 チャイニーズ・ローズ
「潤…」
彼女が立上がる。
こちらに向かって歩いてくる。
「ごめんな…」
顔を見られない。
「潤と櫻井さんが…」
「え?」
「付き合ってるってわかったら、どうなるだろうね…?」
ゆらりと彼女の影が揺らめいた。
「え…?どういう…」
「男同士…」
くっくっくと彼女の喉から低い笑い。
「ねえ…潤の子供、産んであげる」
「…何言ってんだよ…」
「皆に、黙っててあげる」
カタンと指輪を外して、テーブルに置いた。
「あなたの心は、櫻井さんにあげる。だから…」
彼女の手が、俺の首に回った。
「黙っててあげるから…」
ぐっと力を入れられた。
苦しい…
「だから、潤…?戻ってきて?」
力任せに彼女を振りほどいた。
ガターンと派手な音を立てて、彼女は床に倒れた。
イスが倒れた。
「ご、ごめんっ…」
彼女の額から血が流れていた。
まずいっ…
慌てて彼女を抱き上げて、病院に運んだ。
顔に傷なんて作ったら…
彼女の仕事が…
待合室で待っていると、ガーゼをつけた彼女が出てきて。
俺と目を合わさず去っていった。
そのまま、連絡は途絶えた。