第10章 チャイニーズ・ローズ
「潤…」
手を、差し伸べてきた。
「おいで…」
その顔に、いつもの薄い笑みはなくて。
切羽詰まった男の顔があった。
なにも考えられなくなった。
その手をとるまで、視界が揺らめいて。
ぎゅっと手を握ると、引き寄せられて。
いつもの匂いのする胸に抱きしめられたら、勝手に涙が零れて。
「行こう…?俺達の部屋…」
翔くんが手を取って歩き出す。
エレベーターに乗り込んだら、翔くんが俺をそっと抱きしめて。
壊れ物に触れるみたいにそっと…
扉が開くと、また俺の手を引いて部屋に入った。
俺が裸足なのに今更気づいて。
お風呂にお湯を落として戻ってきて。
「ごめんな…」
そう俺の頭を抱え込んで、抱きしめてくれて。
「翔くん…」
胸に顔を埋めると、幸せで…
泣き叫びたいくらい幸せで。
「彼女に…連絡しとけ…」
翔くんがスマホを手渡してくれた。
電話をかけると、すぐに出てくれた。
『潤…!?大丈夫?いまどこなの?』
「ごめん…」
『潤…』
「ごめん…ありがとう…」
『いいよ…潤がしあわせになるなら…』
ごめん…ごめんな…