第10章 チャイニーズ・ローズ
それからずっと、収録で会っても俺は無視された。
メンバーとしての会話はするけど、普段となんの変化もない。
そうだろうな…
だって、俺達は男同士で…
それに。
あの夜、別に翔くんから何を言われたわけでもない。
何を約束されたわけでもない。
ポケットに常に入っている、あの部屋の鍵。
それだけがあの夜の事実。
燃え出した心の炎は、また埋めるか…
もう…慣れてる。
諦めることなんて慣れてる。
この鍵があれば…
そっとポケットで鍵を握りしめた。
知らずに微笑む。
ふと顔をあげると、翔くんがこちらを見ていた。
目が合うと、すぐに逸らされた。
なんだろう…
その時、スマホに着信があった。
「もしもし…あ…うん…今日は大丈夫。行けると思う。うん…じゃあ、終わったら連絡する」
彼女からの連絡。
あの夜から、避けていたけど…
いいかげん、そうもいかない。
そろそろ向き合わないとな。
コトリとスマホを置くと、手首を掴まれた。
「え?」
「今日、来い」
それだけ言うと、翔くんは楽屋を出て行った。