第1章 しあわせはここにある-parallel-
「だめ…だめだよ。智…」
「なんで?一回イけば、滑るようになるよ?」
「だめだよ。俺と智は、これから恋人のセックスするんだから」
「…え?」
「好きな人とする初めてのセックスだよ?気持ちいいセックスしたいの」
「恋人…?」
「そう。俺と智」
「や…だ…無理…」
「なんで?好きなんだもん」
「俺なんて…」
「だから、一緒に地獄行くから。気持ちいいのも、一緒だよ?」
「かず…」
「ちょっと待っててね」
そう言って、荷物をあさりに行った。
確か、あれがあったはず。
ワセリン。
これでなんとかならないかな。
それを持って戻った。
さすがにコンドームはなかった。
しょうがない。
初めてが生ですか…嬉しいねえ。
なんて考えながら、俺は恐いのを誤魔化してた。
智を傷つけたらどうしよう。
痛い思いをさせてしまったらどうしよう。
もっと思い出させてしまったらどうしよう。
どうしてこんなとき、大人じゃないんだろうって思う。
もっと大人で、もっと経験があったら、智に痛い思いなんて絶対させないはずなのに。
俺はバクバクする心臓を鎮めながら寝室に再び入った。