第8章 インディゴ scene1
「準備…してたんだ…食べよ?智くん」
智くんは頬を少し赤くしながら、席についた。
「ありがとう…疲れてるのにこんな…」
「いいんだよ…祝いたかったんだから…」
そう言って白ワインを開けた。
トクトクと注ぐと、白ワインの爽やかな芳香が漂った。
雅紀のグラスに注ぎ、自分のグラスにも注ぐ。
「じゃあ…」
時計を見つめる。
23:59の表示を三人で見つめた。
時計が進んだ瞬間、グラスを合わせた。
「誕生日おめでとう!」
雅紀が元気よく叫ぶ。
「おかあさん、産んでくれてありがとう!」
俺が叫ぶと、智くんはむくれた。
「それ、俺のセリフ…」
「まあまあ、一回言ってみたかったんだよ」
剥れた頬をつついた。
ぷうっと空気が抜けたかと思ったら、智くんは最上の笑顔を俺に向けた。
「ありがとう。翔くん。嬉しい」
頬を染めながら、蕩けそうな笑顔を見せた。
これだ…これだよ…
この笑顔に、人は騙されるんだ…
こんな笑顔みせてくれるなんて、この人、自分のこと好きなのかなって…勘違いするんだ…
そっと智くんの頬に触れる。
雅紀も、触れた。