第7章 虫襖-ムシアオ-
雅紀…
雅紀……
なんで泣いてるの…?
泣かないで。
こっちおいでよ。
抱きしめてあげるから。
雅紀に向かって手を伸ばすと、雅紀は後ずさった。
おいで。雅紀。
涙で顔をぐしゃぐしゃにして、雅紀は楽屋を飛び出していった。
なんで?
汚れた俺は、やっぱり嫌いなの?
ね…雅紀…
いかないで
収録が始まる。
雅紀は明らかに様子がおかしい。
なるべく皆でフォローして、なんとか乗り切る。
目が腫れ上がって、最悪のコンディション。
それでも俺達は仕事を休めない。
そのまま収録は進んでいった。
雅紀は俺を見ようとしなかった。
結局、事務所の車で帰るまで、一回もこちらをみなかった。
勝手にすればいい。
捨てるなら、捨てればいい。
醜い俺が嫌なら。
家に帰って、ソファに身を沈める。
疲れた…
今日起こった全てのことを振り返ることもしたくなかった。
ただ、雅紀。
とうとう俺を捨てるかもしれない。
……これで俺は、開放される。
長かった苦しみの時間から解き放たれる。
そして同時に。
俺は死ぬ。
あいつが傍にいない人生なんて。
死んでいるのと一緒だから。