第7章 虫襖-ムシアオ-
「やだぁっ…やめてっ…」
殴られる音がした。
叫べよ…助けになんていってやらないんだから…
俯いていると、後ろからポンと肩を叩かれた。
「はい、二宮」
そこには、くしゃくしゃの万券が二枚。
「確かに払ったからな。二発ぶん」
下卑た笑いを残すと、先輩は戻っていった。
一発一万…
やっすい値段…
「雅紀…」
振り返らないで、名前を呼ぶ。
「雅紀…」
拳を握りしめた。
汚れてよ…俺のために。
なんだってするって言ったよね…?
「ニノぉっ…ねえっ…」
「うるせえな…黙ってろよ」
また殴られる音が聞こえた。
「雅紀…」
拳を胸に抱えて、振り返るのを耐えた。
やがて、先輩たちが満足して雅紀から離れた。
俺の顔を覗き込んで、ぎょっとしながら先輩たちは出て行った。
ぽつんと取り残された。
リハーサル室のドアを締めて、内側から鍵を掛けた。
振り返ると、ボロ布のようになった雅紀がいた。
俺は、その姿をみて心底安心した。
やっと、雅紀…
俺とおなじになった…
微笑みながら跪く。
涙でぐしゃぐしゃになった雅紀の頬を撫でた。
閉じていた目が開かれると、俺を見上げた。
その瞬間。
雅紀は微笑んだ。