第7章 虫襖-ムシアオ-
誰もいなくなるのを見計らって、雅紀を呼び出した。
俺の久しぶりの呼び出しに、雅紀は喜んで来た。
「ニノ!」
手を振りながらこちらに来る雅紀に、俺は微笑む。
もうすぐこいつを汚せると思ったら、ゾクゾクした。
「ごめんね…?ふたりきりで会えなくて…」
「いいんだ…忙しかったんでしょ?」
そう言って、そっと俺の手を握った。
「よー。熱いねえ…」
先輩たちが物陰から出てきた。
「わっ…びっくりしたぁ…」
こんな時なのに、雅紀は先輩たちに笑いかけた。
「なんだぁ。びっくりさせないでよ。先輩っ」
先輩たちは、その笑顔に釘付けになった。
「本当にいいの?二宮…」
「いいよ」
そう言うと、俺は立ちあがった。
「雅紀、ごめんね。金がいるの」
「え…?」
雅紀の腕を取ると、先輩たちに向かって突き飛ばした。
「どうぞ。煮るなり、焼くなり」
「ニノ…?」
「雅紀、ごめんね」
雅紀の顔が、歪んだかと思ったら、先輩たちが雅紀を床に押し倒した。
「ニノぉっ…」
悲痛な叫び。
暴れる音。
俺は背を向けてた。
入り口で、人がこないよう見張りをしてた。
雅紀の声だけが、俺の鼓膜を揺らした。