第7章 虫襖-ムシアオ-
真夜中、玄関の鍵の開く音。
ふらつきながら、雅紀が入ってくる。
「ニノ…」
待っていた俺の姿を見つけると、嬉しそうに微笑んだ。
本当に嬉しそうに…
リビングの入口に凭れて、俺は微笑んでやった。
嬉しそうに近づく雅紀の手を取って、抱き寄せた。
「今日は…畑中さんにどんなことされたの…?」
「…言わなきゃいけない…?」
「聞きたい…雅紀」
「嫌だよ…」
「そう…じゃあいいよ」
「あっ…待って…言うから…行かないで…」
「いいよもう。ホラ、金だせよ」
「あ…うん。ごめんね」
モッズコートのポケットから、紙の帯で巻かれた札束を出してきた。
「ふん…今日はシケてんな。あのおっさん」
「ごめん…俺が…」
「いいって。もう」
そう言って離れると、後ろから抱きすくめられた。
「ごめんね…次はもっと頑張るから…」
「いいんだよ…雅紀は精一杯やってるんだから…」
抱きしめる腕に、手を添える。
「いつもありがとうね…雅紀」
「ううん…ニノの役に立てるなら…」
「そんなこと言って…」
雅紀の腕の中でぐるりと振り返る。
「本当は気持よかったんだろ?」