第1章 しあわせはここにある-parallel-
大野さんの目が大きく見開かれた。
ガタガタと震えだした。
点滴の針を乱暴に引き抜くとベッドから降りようとした。
でも足に力が入らないのか、そのまま床に倒れ込んだ。
「大野さんっ…」
駆け寄って起き上がらせようとすると、手を振り払われた。
「だめ…だめだって…」
「え…?」
「触っちゃだめ…汚い…」
ぶるぶる震えて床に座り込んで両手をこすりあわせてる。
「汚いから…皆、俺に触っちゃだめ…」
ぼたぼた涙が零れて、床を濡らしている。
「だめ…だめだよ…皆、きれいなんだから…」
まだこの人は苛まれてる。
自分の罪じゃないのに。
なにも問題は解決してない。
むしろ傷は深まってる。
「あ、あ…取れない…取れない…」
麻薬中毒患者のように、大野さんは見えない手の汚れを落とそうとしている。
俺はそっとその手を握った。
ものすごい力で振り払われたけど、何度も手を握った。
そのうち相葉さんも手を握った。
大野さんが相葉さんを振り切ると、俺が握る。
翔さんも、潤も来た。
ずっと皆で大野さんの手を握った。
そのうち振り払う力が尽きて、大野さんの手は、皆に包まれた。
大野さんははらはらと涙をながしながら、意識を失った。