第1章 しあわせはここにある-parallel-
ドアを開けてベッドをみたら、大野さんが居ない。
さっきまで規則正しく聞こえていた電子音が、耳障りな警告音になっている。
キーンとした音が病室に響いていた。
窓から少し差している陽光が、ベッドの横の床でキラリと反射した。
目をやると、ナイフを持った大野さんが今にも自分を刺そうとしているところだった。
「大野さんっ…!」
反射的に身体が動いた。
手を乱暴にはたくと、ナイフがぼろっと落ちた。
大野さんはそれでも這いつくばってナイフを取りに行く。
俺はとっさにナイフを蹴った。
遠くへ滑っていく。
俺はとっさに頬を叩いた。
「大野さんっ…!」
「…なせて…」
「え…?」
「しなせてぇ…」
なにを言っているのかわからなかった。
「おねがい…おねがいだから…しなせてぇ…」
やっとそれが”死なせてくれ”という訴えだったのに気づいた。
「バカっ…」
俺は大野さんの両手首を掴んだ。
「俺達を見てよ…!ねえ!ここにいるよ!?」
大野さんの瞳は、俺達を見ていない。
遠い宙を彷徨っている。