第4章 《ご飯粒》
ただでさえぶすくれて膨らんでいる頬を更に膨らませて彼は言う。
「…木兎さんのは取ってあげるのに、自分の彼氏のはとってくれないの。は俺のこと好きじゃないの」
待て待て、それはとてつもない勘違いだ。私は慌てて訂正する。
「…好きだからですよ。好きだから、恥ずかしいんです。迂闊に触れられないんです」
眠そうな目を、いつもより少しだけ縦に大きく開いた彼。一応、驚いている表情だ。
行ってて若干恥ずかしくなりつつ、本当のことなのでそのまま彼の返答を待つ。
すると何を思ったか、急に口の周りを綺麗にしだした。
「…やっぱり、自分で取れるんじゃ…!」
「じゃあ、はい、1つだけとって」
私の言葉に被せながら彼は言う。え?と思って改めて彼の顔を見ると、成程、1つだけ残っている。
…唇に。
その意味を考えると顔に血が登る。
「舐め取ればいいじゃないですか!」
流石に本気で恥ずかしくなって言い返すも、彼の「は俺のこと好きじゃないのか…そっか…」という、木兎先輩でいうしょぼくれモード的なものが発動してしまった。ちなみに赤葦さんがしょぼくれることは滅多にないが、その分しょぼくれた時は木兎さんより面倒だ。
「あ…あぁ、もう、いいです、いいです!わかりました!とりますから!少し屈んで下さい!」
面倒臭いけど可愛い年上の彼に負けて私は意を決する。
誰も見てないということを確認して、ほんの一瞬、彼の唇に自分の唇を触れ合わせた。
「…ん、いい子」
そう言って私の頭を優しく撫で回す赤葦さん。
私が彼に勝てる日は来るのだろうか…なんて考えて、いや、来ないだろうなと結論に至る。
この後、実は梟谷メンバーとマネさんたちにバレていて、そのことで散々弄られたのだが、それはまた別の話。