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Fate/Fantasy Of Cthulhu

第7章 調査


千もの口を持った顔のないあいつの姿を、言葉で言い表すことはできない。そいつはグルグルとかき混ざったり、泡立ったりするような感じで、いっときも完全な姿を見せる瞬間はなかった。私はあまりにも驚き、恐れて、凍りついたようになって床に座っていた。感覚のなくなった指の間からペンが落ちた。誠治と稔は私と同じように凍りついたようになっており、一輝は短く鋭い叫び声を上げた。ところが雄介は立ち上がった。そしてわれわれが止める暇もなく、恐ろしい客人を抱きしめようとするかのように、前へ進み出ていった。怪物は手を伸ばしてーーーと言うか、手のように見える付属器官を伸ばして、哀れな雄介をつかみ、彼の首をいとも無造作に、まるで人形の首でもひねるように簡単にグルリとひねった。怪物はその死体を座っている優の膝上に投げてよこした。それで優があの恐ろしい金切り声を上げはじめたのだ。彼はどうやっても金切り声を止めようとせず、われわれが彼を平助の部下たちの手に渡したあとでもずっと続けていた。
それでもわれわれにはまだチャンスがあった。今になって稔が言うには、われわれがちゃんと知性を保ち、例の詠唱を逆にして唱えることができれば、怪物をもと来た所へ返すことができたはずだという。しかしパニックに陥っていた一輝が五芒星形の所へ進み出ていって、図形の一部を消してしまった。そうすれば怪物を追い払うことができると勘違いしたのだ。束縛されていた記号から解放された生き物は、キーッという叫び声ーーー不浄な満足の叫び以外の何物でもあるまいーーーを上げて家を出て行った。沸き返る色をし、とどろき、叫ぶ一陣の風となって窓から外へ吹き去って行ったのだ。
稔はまだあの怪物を破壊する手段、あるいは少なくとも追い払う手段はあると信じているが、残りの者たちはこんなことを消化できるような胃袋は持っていなかった。しかしわれわれがかけた呪文は、召喚した生き物を従属させる力があるから、あの怪物は家に従属させられているはずだということだ。実際、2、3日後に自分の持ち物を取りに家に戻ってみると、上の方の屋根裏部屋でドンドンと壁や床をたたく音がしていた。稔が無邪気な様子で掘り込んだあの印が効果を発揮していて、怪物は印のない屋根裏部屋を除いては家に入れなかったのだ。
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