第3章 春という季節
やがて光が静かに消えてなくなると、そこには傷が癒え寝ているマシュと疲弊している歩の姿があった。
「はぁ・・・おっ、終わった・・・ぞ、クー・フーリン」
「成功、したんだよな?」
「あぁ・・・」
歩が優しく微笑んだ。
すると、気が緩んだのか歩は倒れそうになった。
クー・フーリンは慌てて駆け寄り歩の体を支えた。
「大丈夫か、マスター?」
「すまん、3日・・・寝かせてくれ・・・」
その言葉を最後に歩は意識を失い、静かに寝息をたてていた。
「よく頑張ったな、マスター・・・」
クー・フーリンはそう言うと歩とマシュを抱え土御門神社に戻った。
そして、土御門神社にいる全員がパニックに陥ったのは言うまでもない。
初から連絡を受けたのは、依頼を受けてから1日が過ぎた時だった。
「おっ!?生きているみたいだな・・・」
「みたい、じゃなく生きている」
初はそう断言した。
声の調子から、疲れていることを拓実には理解できた。
「で、何か用か?」
「帰れ、初」
「は!?」
「隠れていないで、家に帰れということだよ」
「それは・・・できない」
「理由を聞かせてくれるか?」
「簡単な話さ。オレは家族やサーヴァントの信頼と期待を裏切った・・・合わせる顔がない」
「なるほどな~。でも、それは本心か?」
「えっ?どういう意味だ・・・」
「合わせる顔が本当にないなら、お前に関わりのある人と連絡を絶つだろう、少なくとも俺がお前ならそうする」
「・・・」
拓実の言葉に対し初は黙った。
「お前は優しすぎで、人の痛みを自分の痛みとして捉える。なら、家族やサーヴァントの気持ちを理解できるだろう?」
「多少は・・・」
初は今にも消えそうな声で言った。
その言葉を聞き拓実は、ニヤリと笑い言った。
「実は・・・初に謝らなくちゃいけないことがある」
「ん?」
「初の家族に、初から連絡があって帰りたがっているから、温かく迎えてくれと伝えた」
「なっ・・・」
拓実が言ったことは嘘だが、初の本心を代弁していた。
それに初を動かすには十分、威力を持った言葉でもあった。
当の本人は絶句しているが。
「全く勝手なことをしてくれたな・・・。けど、その心遣いに感謝するよ」
先ほどまでと違い初の声に生気が戻っていた。
「存分に感謝したまえ~。あっ、急に話は変わるが・・・今度飲みに行こうぜ」
「分かったよ、どうせ奢ることになるんだろう?」