第1章 一緒に帰ろう。
あんなことがあってから数日経った。
幸い、お出かけをドタキャンした友達とも和解することができたが、先生との関係はそのまま。
そしてこれから、憂鬱な部活が始まる。
____魂がないような状態で部活を終え、帰路につく。
みんなとは逆方面。
いつも先生と会う方面。
けれども、その姿は見つからない。
『それもそうか、』と諦めかけたそのとき、名前を呼ばれる。
「ひな。」
…大好きな声。優しくて、よく通る声。
………涙が溢れる。
「くりちゃ…」
走り出して、先生の胸に飛び込みたい衝動を抑える。
涙を拭いて、先生に向き直った。
「な、なんの御用ですか、先生。」
何もなかった様に話す。
先生は悲しそうにそれを見つめてるだけ。
「御用がないなら失礼します。」
そう言い残してくるり、と向きを変えたときだった。
「あんなことがあっても俺のことがすき?」
「…っ!」
見開かれるひなの目。
でも、だめだ。また関係を持ち出して何か言うに決まっている。
「すきなわけな…っ」
また、口がふさがれる。
でも、直ぐに離れる。
物足りないくちびる。
「…な…い。」
言おうとした言葉を口に出すと、胸に溜まっていたものが溢れ出す。
今まで、胸の奥にためていたもの。
吐き出したくても吐き出せない気持ち。
「……すき。す…きっ、好き‼︎」
ボロボロと出てくる涙はもう止まらない。
しかしそれを拭う様に先生はほおにキスを落とす。
そして、ぎゅっと、ひなを抱きしめる。
「たとえ、この関係でも、すき?」
先生の胸の中で大泣きしながら精一杯頷く。
そんな姿に先生は微笑みながら言った。
「俺もすき」
先生から、初めての”好き”をもらった気がして
しばらく、先生の胸の中で泣いていた…。