第3章 Umbrella【3】
「気持ち悪いっていうか……」
赤葦は少し眉を寄せて彼女を見る。
遠くの方で「虹の味は水だああああ!!」「水は虹だったんだあああ!!」というバカ丸出しの会話が聞こえる。
楽しそうな声が真っ青な空に木霊する中、俺と赤葦の間は別空間のような現実とは非なる空間にいるようなそんな時間が過ぎていた。
「ただ、少しだけ怖いって思っただけです」
彼の静かな声が耳に響く。
何も言わず黙っていると彼は続けて言う。
「純粋すぎて」
赤葦は言った。
彼女を見ていると幻想的と言えばいいのか、よくわからないがそこらへんにいる人たちと違い"穢れ"がないように見えると言う。
物事を知らない幼女がそのまま大きくなったようなそんな感じだと言う。
「だけど、それを俺は羨ましく思います。大きくなるとそう言う気持ちって薄れていきますから」
「……あいつは俺達と同じで人間だよ」
「はい……」
「黒尾くん!!虹の味はね水だったんだよ!木兎くんが証明してくれた!!」
息を弾ませながら俺たちのところに来る彼女は真っ白な歯を見せて笑みをこぼす。
木兎も髪の毛や顔をびしょ濡れにしながら満面の笑みを顔に張り付けている。
「赤葦、赤葦!新たな発見だ!!水は虹だったんだ!」
「いや、それは違うでしょ」
「蛇口をひねれば虹が出てくるんだよ!!素敵だね!」
「そうだな。だったら風呂入ってる時虹のシャワーを浴びてるんだな」
「頭いいなお前!!」
木兎とは目をキラキラと輝かせて、大きな声で笑う。
「、今から自主練するけど、お前も来るか?」
「うん、行く」
「じゃあ行こうぜ」
彼女の手を引いて俺は渡り廊下を歩く。
手から伝わる体温。
それだけで心臓が速く脈打つ。
好きだ。
好きで好きでたまらない。
そう、言えたらいいのに。
Umbrella【3】終