第3章 Umbrella【3】
「触ってみたくて」
「虹を?」
「うん。でもすぐ消えちゃうの」
太陽の光が水によって屈折したり反射したりして出来上がる者だから触ることはできない。
そんなことは中学生の理科で習う事。
それでも彼女は触りたいと言う。
「変なこと言った。気にしないで」
何も言わない俺達に彼女は気分を害したものだと思ったらしく静かに謝る。
中学生のときのトラウマが彼女を襲っている。
普通じゃないそれは彼女をずっと縛り続けている。
「俺も気になってきた!!虹ってどんな感触すんのかな?味とかすんのか?」
晴れた昼下がり、木兎の声が中庭に響く。
「!!考えたことなかった!味もするのかな!?」
「!虹作って!!俺食べてみっから!」
きゃいきゃいと騒ぐ二人。
少なくなった水をと木兎。
「……彼女って昔からこんな感じだったんですか」
「まあ、変わってることは確かだな」
「へえ……」
「……気持ち悪い?」
「え?」
蝉の声が遠く聞こえる。
俺は彼女の過去を知っている。
だけどこいつは知らない。
もちろん木兎も。
そんな奴が彼女をみたらきっと"気持ち悪い"と思うだろう。
精神病なんじゃないかと思うだろう。
だけど彼女は精神病でもなんでもない少し変わってる普通の女の子。