第21章 それぞれが負う傷
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万事屋から人が居なくなって数分後。万事屋の玄関の前でウロウロ立ち往生している女が一人。依頼が入った事など一切知らない天音は、この玄関の向こうに銀時が居ると思い込み焦りと緊張で家の中に足を踏み入れられないでいた。
『どうしようどうしよう…来ちゃった…って来るつもりだったんだけど…』
人の家の前で何とも不審な行動であろうか。だが中々決心がつかず、勇気も出ずかれこれ三十分程経ってしまった。徐々にこんなところでウロウロしていれば、誰かに通報されるのではないか、自分から家に入る前に気配に気付いた銀時が出てくるのではないかと様々な不安が天音を襲った。
『…えぇい、こんな所にいたって仕方ない…前進あるのみ…!』
意を決して天音は玄関に手をかけ生唾を飲み込んだ。手や顔、身体の至る所に嫌な汗が吹き出ていた。そして現実から目を背ける様にギュッと目を瞑り、無駄に力が入った手で勢いよく玄関を開けた。
『ぎぎぎっ、銀さん、ごっごめんなさいっ、いっ、いま帰りましたっ!!!』
噛みまくりながら家の中へ声を張り上げる。天音はまだ目を瞑ったままで銀時の声を待った。…が、勿論銀時の声は愚か、誰の声も聞こえてくる事はなく天音は不思議に思い恐る恐る閉じていた目を開けた。
目を開ければそこには誰も居ない部屋。強ばっていた天音の肩の力はすぐに抜け、更に不思議に思いまるで本当の不審者の様に家の中の様子を伺いながらゆっくり入っていった。