第20章 お菓子は目分量で作ってはいけない
『ありがとうございます。』
お妙「こんな綺麗な手傷付けちゃダメ。これからも銀さんの為にお料理もお菓子も作らなきゃダメなんだから。」
絆創膏を貼り終わったお妙さんは私の目を真剣に真っ直ぐ見てそう言った。それじゃあまるで私が銀さんのお嫁さんになるみたいだ。勿論、もしそんな関係になれるなら幸せな事だろうけど、そんな高望みなんて出来ないし、むしろ結婚なんて考えた相手など居ない私にとっては未知の世界だった。
お妙「ここに来てからちゃんと眠れてないんでしょ?」
『………はい。』
お妙「それも今日までだから頑張りなさい。銀さんにバレンタインあげるんでしょ?気合い入れまくって、もう天音ちゃん以外が作ったものなんて食べられなくなるくらい、うんと美味しい物作って胃袋掴んでやりなさいな。」
そう言って私の顔を見るお妙さんの表情も言葉も優しくて、私は感極まって惨めにも立ったまま泣いてしまった。お妙さんは泣き続ける私の背中をゆっくり撫でて、泣き止むまで何も話さずずっと宥めてくれていた。
ひとしきり泣いた後私は気合いを入れ直し、お妙さんにも喝を入れて貰いキッチンへと戻った。
『…よしっ。お妙さんの言う通り、銀さんの胃袋掴んでやる。』
先程指を切った包丁とまな板の上にある数枚のチョコを見て両手のひらで頬をパンと叩き、私は再び包丁を手にした。