第5章 運命の瞬間
「全く織田作。君という人は…」
太宰の笑顔にホッと顔を緩ませる
私たちが駆けつけた時、織田作さんは既に危機に直面していた。
謎の男たちと素早く動き回っていたが、太宰さんの素早い対応で、窮地を逃れた…のだと思う。
如何せん、やはり私の目ではまだ追えないほどに、そして私の頭では理解できない程に高レベルの戦闘が繰り広げられていたのだ。
理解できるのは、織田作さんを殺そうとしていた男たちが、今は死体となって無惨に転がっているという事実だけである。
私がなぜこの場所に走ってこれたのか、ここに来て私に何ができたのか、それを含めて私には何もわからなかった。
「太宰。助かった。恩に着る。だが、なぜこいつを連れてきた」
呆然と立ち尽くすくるみに目をやりながら織田作が言う。
「私だって、連れていくつもりはなかったよ。勝手に走り出してしまったんだ」
「お前が場所を教えたということだろう。つまりおまえが連れてきたことに変わりない。異能もないのだから巻き込むのは……」
「…」
織田作の台詞は何も間違っていないと思う。私だって織田作の立場だったらそう言うだろう。
…しかし…
いや。とりあえず今、議題にするべきことじゃない。それこそ彼女にとって大きな負担だろう。
「…あはは!!確かにねぇ!そうなると私の所為になるんだなぁ。これからは気をつけるよ。織田作には敵わないや」
「……」
太宰はいつもの様にひょうきんな声をあげている。
だが俺にはわかってしまった。
不自然なほど上がった口角とは裏腹に目が笑っていないことが。
太宰がこの顔をする時は誰か不愉快だが上手くやる必要のある相手と対談する時、もしくはーー
嘘をついているときだ。