第5章 力の使い所と彼らとの距離
嗜めるように彼の肩を叩くのは、粟田口唯一の太刀である一期一振だ。その刀としての性質もあって、彼ら短刀達は一期一振を長兄として敬っている。立ち振る舞いが優雅な彼は、絵本から出てきた“王子様”のようだと、初見で叶弥はぼやいていた。
生命が芽吹く季節を思わせる涼やかな髪を揺らし、優しい眼差しで気苦労の多い弟を見遣る。
「薬研。主がああおっしゃっているんだ。私たちがどうこう言う幕ではないよ」
「……分かってる」
叶弥はチラと見るも、気にせず蒼司と話を続けているようだった。色んな意味で肝が据わっていると岩融と今剣は楽しそうに話している。
叶弥は隅で金色の鬣を揺らす彼に近づいてその瞳を覗き込んだ。
「獅子王、お前いつになく大人しいなぁ。一番最初に首突っ込んで来そうだったんだけど」
「ん?いやなに、新しい仲間を迎えるんだ。最初くらいは先輩らしい姿を見せてやらないとカッコつかないだろ?」
「あとから獅子王のちたいをさらしてしまうなら、あまりかんけいないとおもいますけどねー」
「身も蓋も無いこと言うなよ今剣、台無しじゃねぇか」
はははと、やや張り詰めていた空気が一瞬にして溶けた様で、石切丸はふうとため息をついたのだった。
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青い日本庭園に浮かぶ赤い橋に、空気に溶けて消えそうに佇む“白い陰”。
伏せられた瞼を開くと、金の瞳が憂いを帯びて揺れた。
長いこと彼女と共に在るカノンは、内に抱えている秘密に実の所疲弊していて、時折こうして1人でいる事で整理しているらしかった。
(僕は神の端くれ。末端に属する“彼等”より神格は高いとはいえ、看破される可能性は無きにしもあらず、か)
時渡りを幾度も繰り返しはしたが、幾つか例外はあれどその先々には何故か毎度の如く“神”が存在していた。引き寄せられるようにそれらと接触を図る叶弥には何かセンサーでもあるんじゃないかと思う位なのだ。
(やっぱり、叶弥自身が神格を持ちつつあるのは疑いようも無さそうだね)
やはりというか、落胆するというか、カノンは複雑な気持ちで。カノンの成したい目的とは遠のいている事実に、ため息すら出なくなっていた。
と、視線を感じたカノンはそちらを注視すると、青い衣が揺れるのを捉えた。