第1章 今度は何事!?
今一度問おう。
私がいたのは、つい今しがたまでいた“世界”は。
「あのスケコマシ淫獣と万年仏頂面鬼畜変態のいた世界じゃないのか?」
「…僕に言われても」
デジャヴ。
何度も世界を渡りすぎて最早見慣れてしまった、否、毎度作り出されるこの特殊な状況に既視感を感じない方が無理だろう。
眼前には見覚えのない荒野が広がっていた。
唯一の救いといえば、魂の片割れであるカノンが隣にいる事くらいか。
カノンがなんだって?
ああもう、説明すらめんどくさい。
要は、私の相棒であり私を一番知るものであり、眉目秀麗文武両道、ついでにいえば神様なのだ。
「ついで、って。一番重要じゃないの?」
「いいじゃん、分かれば。というか神様なのに言うほど何かしてるわけでもないよね?」
「君専用の神様だからね。出来ることだって限られてくるさ」
「頼もしいことで……」
しょうもない掛け合いをする最中不意に背後に気配を感じ取り、私とカノンは同時にそちらを振り返った。
目に写ったのは…
「……落ち武者?」
いや、そんなものじゃない。そいつの目に宿る禍々しい光が、異形の者だと告げている。次いで私の中の感覚がそれを敏感に感じ取っていた。コイツは良くないものだと。
「…!叶弥!!」
カノンの声に呼応するかのように振りかぶられたソレを間一髪で避けると、異形の者はそれが気に入らなかったのか、けたたましい声を上げてなおも襲いかかってきた。
「…ッ逃げる!!」
脱兎のごとくカノンの横を通り過ぎる瞬間、置いていくだのなんだのとうるさい小言が聞こえた気がするが、そんなの知った事か。神様なんだから逃げるくらい自分でなんとかしろ。そう内心悪態をつきながらひたすら荒野を突っ切っていく。
途中気になって振り返ると、ちゃんと逃げているようだった。
(ほらね)
ふふんと一度鼻を鳴らすと、私たちを追いかけながら吠える異形の者二つを従えて、ひたすら走るのだった。