第8章 tragic love①
「君が櫻井翔くんか。オーナーから話しは聞いてるよ。俺が店長の長瀬です。宜しくな」
「は、はい…。宜しくお願いします」
初出勤の日。
俺は松岡さんに言われたバーで店長と話をしていた。
松岡さんよりも背が高くて…ワイルドな感じの人だな…。
長瀬「君の年齢知ってるのは俺だけだから。ここでは19って事にしておくから」
「はい」
長瀬「勤務時間は15時から22時まで。週末は忙しいから早く出勤してもらう事もあるかもしれない。店は18時からだから出勤したら店の掃除。それから簡単な料理の仕込み。サラダとか…おつまみとか。店開いたらオーダー取ったり、お酒作ったり運んだり。ホストの指名が入ったらそいつのとこに知らせに行ったり…店は3時まで開いてるから時間になったら上がってもらって構わないよ。そんな感じかな」
「はい。宜しくお願いします」
長瀬「でも…勿体無いな。櫻井くん…ナンバーワンになれる素質あるよ。ホストは駄目なの?」
「………あ…いや…」
長瀬「16でそのルックスと色気だもんな…」
顎を触りながら俺を舐め回す様に見つめる長瀬店長。
………俺…この人苦手だ…。
「接客は苦手で…どうやったらいいか…」
俺は彼から目を反らす様にうつ向き、誤魔化した。
長瀬「まぁ仕方ないな。16だもんな。その気になったらいつでも言ってくれ」
「はい…ありがとうございます」
長瀬「よし。じゃあこっちおいで」
長瀬店長が立ち上がると店内に向かって声を掛けた。
長瀬「おーい、ちょっといいか」
すると思うようにくつろいでた従業員達が長瀬店長の前に並んだ。
長瀬「今日からボーイで働く櫻井翔くん19歳だ。色々教えてやってくれな」
従業員「はい!」
「櫻井翔です…よ、宜しくお願いします」
頭を下げ、回りを見渡すと俺を笑顔で見てる人、新しい競争相手だと思ってるのか敵意を込めた目で見てる人、様々だった。
大勢の知らない人達に囲まれた中で、俺は孤独を感じながらただそこに突っ立っていた。