第19章 押し寄せる過去
「ど、してそれを…」
絵里「どうしてだと思う?」
「………」
絵里「分からない?私は一目見て分かったわ。お店の前で見たから」
「………ごめんなさい…分かりません…」
絵里「………長野博…って知ってる?」
「………長野博…?え…長野さん…?」
絵里「さすが元ナンバーワンね。今でも覚えてるなんて。それとも何?いい金づるだったから覚えてるの?」
「………それは…」
そう…覚えてる。
長野博さん…。
雅紀に逢う前…俺に熱心だった客。
一流商社に務めていた彼は…俺に逆上せるあまり、店に通い詰め…貯金を切り崩し、挙げ句の果てには会社の金を横領した。
彼は逮捕され…今は刑務所で罪を償ってる。
「どうして…長野さんの事…」
絵里「大学の友人の先輩だったの時博とは。仕事も出来て優しくて尽くしてくれて…稼ぎもある。雅紀と付き合ってたけど…好きだったわ彼が。でも壊されたのよ。貴方にね」
「そんな…」
絵里「事実でしょ?娼館なんて行く様な人じゃなかったのに…。あんたに溺れて私は捨てられた。その後も彼は金貢いで貢いで…会社のお金にまで…!あんたのせいよ!!」
感情的になった絵里さんに胸ぐらを掴まれる。
絵里「その上雅紀まで私から奪うの?雅紀しか居ないって思って戻って来たのに…!雅紀まで!!」
「違う…違います!俺は雅紀と本気で…」
絵里「誰が信じるもんですか!身体で金稼ぐ様な貴方がこんな田舎の中華料理屋で満足なんてする訳ないでしょ!?いい加減に雅紀を解放しなさいよ!」
「絵里さん…」
絵里「雅紀の幸せ願うんなら…身を引きなさいよ。あんたにどうやって雅紀を幸せに出来るっていうの。私なら…雅紀の望む物…あげられる。家庭も…子供だって与えてあげられる。貴方は…何を与えられるの?」
「………」
絵里「貴方なんて…雅紀の店…しゃぶりつくして潰すのがオチよ。雅紀を愛してるなら…別れて。私に雅紀を返して」
「………絵里さん…」
絵里「………お邪魔しました。また来るわ」
ポン、と俺の肩を叩いて絵里さんは部屋を出て行った。
俺は何も言い返せず…彼女の後ろ姿を見つめるしか出来なかった。